『音楽を表現し伝えるために必要なこと』歌う弾き方と声楽・朗読法で演技力を磨く:ノクターンop9-2 〜「プロフェッショナルコース第1期」のレッスン内容紹介~その⑥

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『音楽を表現し伝えるために必要なこと』歌う弾き方と声楽・朗読法で演技力を磨く:ノクターンop9-2 〜「プロフェッショナルコース第1期」のレッスン内容紹介~その⑥

プロフェッショナルコース

2021/04/11 『音楽を表現し伝えるために必要なこと』歌う弾き方と声楽・朗読法で演技力を磨く:ノクターンop9-2 〜「プロフェッショナルコース第1期」のレッスン内容紹介~その⑥

以前のブログにも書きましたが、「もっと歌って!」と先生から言われて、あなたはどう弾き方を変えられますか?

今回は演奏にとって大変重要な、「ピアノで歌う弾き方についてお伝えします。

 

詳しい話は後にして、「歌うような弾き方をするためにどうレッスンしたのか」。

これをノクターンop9-2でどう行ったかを、先にお伝えしておきます。

 

この曲は、すでにこのシリーズの①で、左手の弾き方へのレッスン法が、『弟子から見たショパン』(新版p113)にある「ショパンの教え方と、私の方法がまったく同じだった」という、その指導内容と共に、なぜ私がそう指導したのか、その理由もご紹介し、拍子についてもその時にご説明致しました。

 

ここではまず、右手の弾き方について取り上げながら、「歌う弾き方」の方法をお伝えし、後半は一般論として、ピアノで歌うためには「何が必要なのか」「いったいどうすればいいのか」についても、ショパンの言葉を借りてお伝えしておこうと思います。

 

ではまずこの曲を「歌うように弾く方法」です。

 

私は最初の4小節に歌詞を付けました。この歌詞をつけるという方法は、「素直な心」でも初心者Tさんに使ったように、手指がその鍵盤にすぐに来てくれない時や、音に表情が感じられない、語りかけるように弾いて欲しいなどの場合に、その場で即興で作詞する、私がよく使う方法です。これまでほとんどの場合、即座に改善して頂けました。

このノクターンはショパンの作品の中でも、特に恋愛感情が大きく込められた素晴らしい曲ですから、棒読みで音符を拾っただけのような演奏など、私はレッスン中にでも聞かされたくないのです。

 

では私が付けたその歌詞をご紹介します。|は小節線を表しています。

(3拍子と誤解されている方へ。念のためですが、最初の4小節とは、最初の変奏が始まる手前までです。)

 

「い|としmy darling  好|き~とても好きよ~~ my darling,

い|つも そばで | ずうっ、と優しくして|ねーー」

(「とても好き」は、ターンの5連符に1字ずつ配しました)

旋律と同じく、歌詞も起承転結になっていますが、これは決してそれを意識して付けたものではありません。歌詞を付けた後で、音楽もそうなっていると気付いたのです。

やはり「音楽は世界の共通語」と言われているように、言葉がなくても気持ちが伝わる要素が、このように存在しています。演奏者は、ぜひともそれを常に感じながら演奏していただきたいものです。

 

なおこの歌詞は、個々の音符に単に字を割当てたのではありません。

元の旋律が持っている役割を大事に表現できるよう、次のように言葉を厳選しています。

 

① 1拍めの強拍に、ことばのアクセントが来るようにしています②  「あなた」ではなく、3拍目の中強拍のアクセントがより明瞭になるdarlingを使いました

③ ターンの5連符に1字ずつ配したのは、どの音も大切に扱って欲しいからです

この音型にこの言葉は、好都合にも、感情の高揚にピッタリ当てはまっています

特に「好きよ!」の部分は、それ程の情熱を込めてcresc.して弾けるようにと考えた結果です

④ 「ずっと」ではなく「ずうっ、と」にして、声によるポルタメントの雰囲気を伝えています

さらにその2音にかかるスラーのため「うっ、」で切って歌います

⑤ 2・4小節目の各頂点に、「よ~」と「ずうっ、と」の感情を込めやすい言葉を選んでいます

⑥ 3拍子で演奏される事を防ぎ、1フレーズを一息で歌える速さで弾けるようにしています

 

このようにして、演奏ができるだけ言葉の意味に近い雰囲気を出せるよう、また「ピアノによって歌う」ということができるように、ほとんど即興で歌詞が湧いてきます。

音楽がそう語り掛けてくれるので、言葉が自然に引き出されるのです。

 

ショパンはレッスンで、「指を使って歌うのですよ!」といつも根気よく繰り返して言っていたそうです(p71)。だからショパンの曲は、歌のように聴く者の心に伝わってくるのです。そのためピアノを弾く人は、常に「語り掛けるように歌う」音楽として演奏しなければならないのです。

 

また同書p69には、ショパンが「音楽と言葉の類似を基礎にして」、「理論的背景に基づいて教えていた」事を、告別のワルツOP69-1の冒頭8小節の例を挙げながら説明されていますから、ピアニストや指導者の皆さんだけでなく、広く音楽の演奏者、また学習者の方々にも、是非ともこれを読まれるよう、強くお勧めいたします。

 

この曲は偶然にも、2009年の拙論「日本人による西洋音楽の演奏傾向と言語特性の関係性およびその問題改善ほの試案~強弱アクセントとアウフタクトの視点から~」(神戸女学院大学論集)に、日本人の中によく見られる、カタカナ英語のようなぎごちない演奏を、生きた演奏へと改善するための一提案として、「フレーズにドラマとして詩を付ける」という項目の中で、私も取り上げていました。拙作の詩は、その資料でご覧いただけます。

 

このように歌詞ではなく、曲の雰囲気や情景を、詩で表現することによって、演奏にドラマ性が反映されるようにする方法も、私は提案しています。

 

要は、歌うような演奏をするためには、フレーズからそのような情景が、自然に感じ取れるように楽譜を読まなければならない、という事なのです。そしてショパンは、きっとそのためにオペラ歌手のような発声法と歌唱法を学ばせたのでしょう。その事は同時に、ショパン自身が自分の曲をそう感じていて、そのイメージで弾いて欲しいという反映になるのではないでしょうか。

 

何にしても演奏者は、何らかのイメージなしに演奏する事など、あってはならないと私は思います。

そんな演奏をすれば、意味を理解しないまま本を読み聞かせているのと、同じ行為になってしまいますから。(そんな朗読では、聞いている方は退屈ですね。)

 

 


さてここからは今回の後半です。

 

音楽を歌うようにピアノで弾くためには、何が必要になるかという内容です。

 

私の恩師は、横で美しい声でよく歌って下さいました。それはきっと、その部分のイメージをはっきりと持てるようにして下さったのだと、今になってその意味がわかるようになりました。

 

このように私は、恩師・江藤支那子先生から「ピアノで音楽を表現する」ことをたくさん教えていただきました。

リヒテルやギレリスの師・ネイガウスは、彼の師・ゴドフスキーを「レッスンの時・・・何よりもまず音楽の先生であった」と書いていますが(『ピアノ演奏芸術について』ネイガウス著)、私の恩師もまた、それと同じ存在でした。

 

音楽で何かが伝わってくる演奏を、自分にも生徒にも、私が常に求めるようになったルーツは、元々クラシック音楽が好きでよく聴いていたことがありますが、恩師から教わった沢山のロシア式レッスンのおかげです。ピアノを弾く手の形やタッチを直されたり、細かい音楽表現を求められたり。そんなレッスンは、当時他では見られないものでした。今でも手を直して下さる先生は、探してもなかなか見つからないのではないでしょうか。

 

ただ残念なことに、私のその時の演奏が、先生の歌声によって改善されたかどうかは、不肖にも記憶にありません。きっと先生の歌声の影響を受けて改善されていたと思いますが、「自分で主体的に変えられた」という記憶はないのです。

 

比較的最近になって、それらを主体的に「歌うように弾く」ためには、生徒が自分で歌って実感するしかないという結論に私は帰着しました。もしかして、ショパンもそう思って生徒に声楽を習わせたのかもしれません。

 

そのためその声は、学校唱歌やカラオケで歌われるような声ではなく、声楽家やオペラ歌手の

「響き」をともなった発声法による声質が必要なのです。

 

ショパンは、「あなたの声の質によく気をくばりなさい。」(p36)や、「最高のテノール歌手のように」(p113)歌うことを要求しています。ショパンは、「ピアノを弾きたいのなら、歌わなければなりません」と、あるご婦人の生徒を、声楽を学びに通わせたほど(p71)、声の質(響き)を大事にしていたのです。

 

響きのある声は、簡単な腹式呼吸法と発声法ができるようになれば、誰でもすぐに出せるようになるはずです。

 

私は学生時代に発声方法を教わりましたが、後年さらに自分で工夫を加えて練習する中、呼吸法と共に発声法を体得しました。(数年後、声楽の教本に「発声法の9割以上が呼吸法である」と書かれているのを読み、自分が工夫した練習法によって体得したことが、正しかった事を確認できました。) そして、その知識と経験を活かして、実際にコーラスで指導もしてきました。

 

その声の「響き」が出せるようになれば、次は「歌い方」や「聴かせ方」の練習が大事になります。

(*このような「音楽表現法」の本格的なレッスンは、これに続く短期(3ケ月)の「演奏表現コース」で行ないます。)

 

さらに私は、歌うような弾き方をするためには、「美しい響きのある声」を耳にした時に、「これだ」と感じられる「音楽性」を高めておく必要があり、そのためには声楽家ほどでなくても、多少でも響きのある声を自分で出せるようにしておくべきだと考えています

 

それは同時に、ピアノの音に対してその響きを聴き取ろうとする意識にも繋がり、また逆にショパンのように、ピアノの音から声楽家の声を感じ取れるまでになれるからです。

 

そのためプロフェッショナルコースでは、呼吸法・発声法の基礎と共に、実際に声に出して歌う練習法もお伝えしています。

 

今回の受講者自選の曲ノクターンop9-2は、この「歌う」感覚をもって望まなければなりません。では実際にどう声に出して歌えばいいのか・・?

 

歌には本来歌詞が必要です。ラララで歌ってもダメです。歌は言葉になっていないと、ピアノを弾く場合、特に無意味になりがちです。

 

なぜなら言葉には当然、アクセントなど強弱の拍、そして何よりも、ひと塊になる単語やフレーズがあります。それらを意識して演奏すれば、必要に応じて音の上に自然に表情が伴うようになり、それによって聴き手にその曲の気持ちが伝わるからです。

 

今回前半でご紹介した、私が作ったノクターンの歌詞は、それらの要素を満たす内容になっていると思いますが、『弟子から見たショパン』のp69には、この辺りの事が詳しく説明されています。

 

今回のブログには、音楽によって表情や気持ちを聴衆に伝えるための、重要なポイントが潜んでいることを、どうかご確認いただきたのです。

 

ショパンが「音楽とはひとつの言語なのだ」(p23)と言い、それを「ショパンにとっては、音楽も脈絡のある言語表現と同じ原則に従うべきなのだ()と著者が言っているのは、この事ではないでしょうか。

ここで「言語表現」と言っているその中身には、「語りによって人に感情を伝える」という、重大な意味が含まれているのではないでしょうか。

 

(私はこのノクターンの冒頭4つの各小節は、見事な起承転結になっていると、歌詞に明示したとおり分析しました。もちろん厳密には漢文の起承転結と同じではありません。またショパンがそれを知っていてこの曲を書いたとは思えませんが、これも文章法の一つの原理。ある語りが意味をもって人の心に伝わるための、自然な法則ではないでしょうか。)

 

 

ショパンは次のように言っています。

「話すのに言葉を用いるように、音楽を奏でるには、音を用いるのである。」(p68)
私はこの『弟子から見たショパン』に出会うよりも前から、受講者に「語るように、朗読するように演奏しなければならない」とお話していましたので、できればさらに朗読の練習もして、多少なりとも演技力を高める練習もしたかったのですが、残念ながらそこまでの時間は取れませんでした。(→本格的には演奏表現コースで)

 

「彼(ショパン)の演奏は誇張表現の全くない、簡潔な気品のある朗読のようなもの」(p68)

とあり、そこには演奏による表現と言語表現・朗唱法(p23)との大きな類似性が見られます。

 

言語であるのなら、それを語る人の気持ちが伝わらなければなりません

それがあってはじめて、聴衆の心に伝わる、本物の「演奏表現」になるのです。

 

今回の内容が、どれほど重要な意味を持っているのか、その解説をこのシリーズの最期、次回番外編でさらに明らかにする予定です。

 

 

このような指導法や演奏法にご興味のあるピアノ指導者・ピアニストの方は、まずは無料体験会へ。

もし、行き詰まりを感じていたり、このままで良いのかと思っておられるようでしたら、この体験会できっとその解決の糸口を見いだせることでしょう。

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