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番外編(中編) 「思いどおり」を演奏に反映させるために。すべての行動は心(意識+無意識)の反映〜「プロフェッショナルコース第1期」のレッスン内容紹介~
「どうしてもこんな音を出したいと思えばその通り体が動いてくれて、指も自ずと訓練されていく」
前回は、『弟子から見たショパン』の著者エーゲルディンゲルの、この言葉の内容を説明しながら、それを実現する方法について、以下の項目でお伝えしました。
① なぜ一瞬で歌うような演奏ができるように生徒を変えられるのか
② 「全ては手が命じるままに動く」ショパン
③ 「まっすぐに核心を突くことであり、音楽の技術的側面を容易なものにすることなのだ。」ショパン
④ 「思い通り動いてくれる指」に育てる方法
その続編として今回は、
⑤ 「どうしてもこんな音を出したい」と思うために絶対必要なこと
⑥ 「こんな音」を教師はどう生徒に伝えられるのか
⑦ 朗読と演奏の関係
以上についてのお話をさせていただきます。
この表題にように「思う」ためには、まず「(美しい)こんな音・・・・」という、目指す目標がはっきりとわかっていることと、「どうしてもそれを出したい」と、強く思えるようにならないことには、前進への一連の流れは生まれません。
ではこれら2つの想いを強くするためのキーポイントは何なのでしょう?
それが前編でお伝えした、無意識でさまざまな形で表れる身体全体の表情や行動を引き起こす源泉である、心そのものの在り方なのです。
ここでお話する事は、当たり前のように思えるかもしれませんが、最も根本的なことであり、また決定的に重要なことなので、どうかそれを改めて検証するつもりでお読み下さい。
人には真剣に、一生懸命集中しないとできないこともたくさんあります。
でもそう簡単に、すべて何事にでも即座に真剣になれるものではありません。
そこには真剣になるための「動機」を呼び起こす、「具体的な何か」が必要になります。
一番わかりやすい「具体的な例」を一つ挙げると、恋焦がれる恋人の存在かも知れません。
これは決して冗談ではなく、積極的な行動への動機につなげられる感情で、私がかつてギレリスの音色に魅了され、それを手に入れるまでの執念を引き起こされたように、強い「魅力」がそこにあるのかどうか。その存在が不可欠だと、まずお伝えしたいのです。
何に魅力を感じるかは、当然個人差があります。しかし、すばらしい芸術作品や芸術的行為には、わかればわかるほど、また感じれば感じるほど多くの人々の心が動かされます。それへの憬れと魅力を感じる気持ちは大きく膨らんで、「何とかして再び出会いたい、手に入れたい」という気持ちにさせるほどの強い力があります。特に美しい宝石などや高い価値を感じたさまざまなものには、それをぜひ手に入れたいという強い「意欲」が引き起こされるでしょう。
故デームス先生は、レッスン終了後、良くできた受講者だけに、このように言われていました。「花を見なさい。美しい美術を見なさい。文学を読みなさい・・・」と。そうアドヴァイスされていたのは、きっとこのように、美しいものに魅力を感じ取る、感性を育てるためだったのでしょう。
話を元に戻しますが、この強い「意欲」こそ、ショパンの代弁者エーゲルディンゲルが言う、「どうしてもこんな音を出したい」という中身なのです。
その対象に強い魅力を感じなければ、それだけの意欲と真剣さは現れてきません。
生徒がデームス先生のレッスンでイメージを持つ事ができた時の、「そうだったのか、わかった!」という、驚きにも似た新鮮さと強い感動が、大きな力となって心が動かされ、強い表現意欲へとつながっていくのではないでしょうか。
最高齢現役ピアニストの室井摩耶子先生は、その新たな魅力の発見が楽しくてしかたがないご様子で、嬉々として私にお話される度にそう感じさせられるのです。
⑥ 「こんな音・・・・」を教師はどう生徒に伝えられるのか
ではレッスンでこのような力を持った大きな魅力を、教師はどうやって生徒に伝えられるのでしょうか。
それが教師の最も重要な役目のはずです。
決して「練習するしかない!」と、ハードで長時間の練習ばかりを強いてはならないのです。
その魅力を持った対象は、時にはたった一つの単音であったり、フレーズであったり、あるいはより長い楽節の場合もあるでしょう。
一番重要で必要なポイントは、そのフレーズなどを記した楽譜に対して、単なる音符ではなく、何らかの気持ちやメッセージを、作曲家が伝えようとして書いているのだと思って、そこから感じ取るように楽譜を読み取れるようにすることです。先ほどの室井先生のように、多くの優れたピアニストたちが、新たな発見を楽しみながら学習されている姿勢に学ばなければなりません。
しかし本来これは、学習者自身が練習中に感じ取れれば一番いいのですが、残念ながら現実は、そうできない場合の方が多いようです。
以下に書くものは、そのような練習の仕方をできるようするための私の提案です。これまで既にお伝えしたものですが、もう一度その私の方法をまとめてご紹介しておきます。
⒈) 教師(または生徒)が歌詞(又はその旋律にふさわしい情景などを表した自由な詩)を付け、そのフレーズから学習者が感じ取ったメッセージの一例を、文字で目に見える形にする。
⒉)それを声に出して朗読する。その読み方は、なるべく声優が語っているかのように、気持ちを込めて声で演技しながら。
⒊) さらにそれを、劇中の人物になって「語る」ことができたら、次は演技しながら、オペラ歌手のように、よく響く声でそれを歌ってみる
<<これらの事をする目的>>
⒈) の歌詞付けは、音符の羅列を、ある意味を持った言葉に置き換えることで、抽象的な音符から具体的な感情をともなったイメージを感じられるようにするためです。
(このシリーズの第6回で、ノクターンに私が歌詞をつけたものを例としてご覧下さい。私がただ単にことばを並べただけではなく、語感やアクセントの位置も考えて作詞していたことを思い出して下さい。)
自由詩の一例は、第6回でご紹介した拙論で例示した、ショパン「告別のワルツ」に見ることができますが、その詩だけをご紹介しておきます。
詩なので、歌詞のように文字を各音符に対応させません。4小節のフレーズ毎に、次の詩が思い浮かびました。
ああ、あれはいつのことだったか 僕のかわいいマリアは
あの時こっちを見て にっこり微笑んでくれた
その愛らしいまなざしに 僕の胸はキュッと締め付けられて・・・
ああ、なつかしき日々 若かりしあの日の頃よ
(音楽と共に、この詩の各段も起承転結と見ることもできますが、それを感じ取りながら弾くことにより、これだけの長い楽節の音楽の流れが途切れることなく、一つのまとまりがある演奏にすることができます。このように、音楽の流れが前へ前へと進んで行くことにより、聴衆の心もそれに引き寄せられながら大きな満足感が得られ、その結果、大拍手へとつながるのです。)
このように、イメージを深くもって各フレーズを弾けば、指先には自然にその想いが音色となって反映されるはずです。故デームス先生も私と同じように、レッスンの中でよく情景を語られたり、即興で詩を作って曲の情景などを伝えておられました。多くの場合、生徒はそれを聞いただけで、弾き方が急変し、意味のない音の羅列だった演奏が、突然聴き手にそれが伝わる、「生きた音楽」に生まれ変わっていくのです。
私は18才でピアノを教え始めた頃から、すでに子供たちにこのような指導をしていました。
例えばブルグミュラー25番「狩」の曲では、
「馬にまたがった狩人が遠くから走ってきて、君の目の前でドドッ!と止まったんだ。」と話して、曲の冒頭p に続くcresc.からfへ、フェルマータで止まるまでの序奏を表現させ、続きは遠くで待ち伏せしている仲間に角笛(ホルン)で、「今からそっちへ追い込むぞぉ~!用意はいいか~?(半終止)」と大きな音fの合図で聞いているところだよ。すると遠くから「OK~、用意はいいぞぉ~!(全終止)」って小さな角笛の音p で返事してるんだよ。」
というように、情景が目に見えるようお話をしてあげていました。
デームス先生も、きっと私と同じ考えで、「生きた音楽」にして弾けるよう教えておられたのではないでしょうか。
多くの教師が「こう弾くのだ」と言って弾いて見せますが、ことばの方がより深くイメージでき、はるかに効率よく、瞬時に演奏へと反映させられる事も、多くの実例から間違いありません。
なぜなら弾いて見せるだけでは、音の強弱などは理解できても、その先生がどのような感情でそのフレーズを弾いているのかまでは、見えないため再現するのが難しいからです。ただ口真似するだけでは、心までは伝えられないのと同じ事になるでしょう。
⒉) の朗読は、情景のイメージが聴く人に伝わるよう、声で演技するためです。音の上に演技力を注ぐ力をつける目的のために、朗読の練習をしておくのです。演奏者には、いつの瞬間でも、その役柄や雰囲気になりきれるだけの、多少の演技力を身につけておく事が必要です。
⒊) の歌ってみるは、同じくそのイメージを、歌声という音楽をともなった声で演技するためです。
この時、よく響く美しい声が、ピアノの音色と共に、表現力に大きな影響を与えるため、正しい発声法による響きと呼吸時の感触を、身体で感じ取れるよう学ぶ必要があるのです。
このような響きのある声が出せると、ピアノの響きにもより敏感になり、美しい「こんな音」への認知能力も高められるはずです。
⒉)と⒊) は、息と声をともなうことにより、演じ方にいろんな多様性が出せます。
また様々なキャラクターになった気持ちで、演技力を高める練習ができます。
ある日本舞踊の先生が語っておられました。「いろんな役になれるのが楽しい」と。
オペラ歌手やバレリーナの方々も、きっとそう感じておられることでしょう。
ピアノを弾く楽しみも、常にそうあってほしいものですが、教師側からそう言わなければならないのは、生徒の気持ちが、楽譜が語り掛ける音楽と結びつかず、また音色の上にも反映されない人が、残念ながら非常に多いからなのです。
演奏者が感じているその情景や心情が聴衆に伝わってこそ、聴き手に満足を与える、生きた演奏になることでしょう。
そのためここに書いた練習法は、ある程度できるようになるまで毎日の練習で実践されれば、きっとピアノの音を聴く耳も変わり、弾き方も変わり、ピアノを弾く楽しみ方までもが変わっていくことでしょう。
これはまた次にお話しする、演技力ある演奏につながる事なのです。
さらにまた、歌う声にも歌い方にも、自然に良い変化が生まれることでしょう。
朗読と演奏には、きわめて近い類似点があり、両者の読み方には、次のような読む能力の段階が考えらえます。
音型の意味は把握できるが、ある意味をもった文の一部として把握するまでには至らない。
⒊) フレーズを意識して読む。⇒1~2小節程度をひと塊として弾けるが、まだ何らかの表情を感じて把握できていない。
⒋) 一つの文章として、意味を把握して読める。⇒4小節程度のフレーズに、表情を感じて弾ける。
⒌) より大きなフレーズ(8小節以上)として、前後の文章との関連を読み取りながら、表情を込めて読める。(ノクターンop9-1の場合は、12/8拍子で1小節が長いため4小節分。)
前出のノクターンとワルツの例のような、起承転結を意識して演奏すれば、聴く人は話の進展を追うことができるため、より一層そのメッセージが伝わりやすくなるでしょう。
最後の8小節のフレーズについては、『弟子から見たショパン』p69に、「音楽における句読法と朗誦法の規則」として詳しく書かれています。(この中でも、先ほどの「告別のワルツ」が、例として使われていました。)
そしてその直前には、次のように書かれています。
「ショパンが弟子たちに教えていた様式の理論は、すべて音楽と言葉の類似を基礎にして、さまざまなフレーズに分け、音の強弱や速度に句読点をつけ、ニュアンスをつけることを旨としていた。」(p69)
このように、楽譜の旋律を、まるで文章のように扱っていたことがわかります。
つまり、ショパンにとって楽譜は、意味を持った言葉であるだけでなく、まるで文章のように読んでいたと思われます。そのため、時には生徒の楽譜に、句点を書き込んでいたそうです。
しかし、これこそが楽譜を意味のある音にし、その音楽を生きた存在に蘇生させる秘訣であり、聴き手にそれが伝わる表現となり得るのだという事を、彼は教えていたのではないでしょうか。
最終回の次回は、どう練習すれば最も楽に手を使い動かすことができるのか。また、どのように音楽を捉えれば、音楽のスムーズな流れを生み出すことができるのかを、この番外編を含むプロフェッショナルコースの最も重要なポイントとしてお伝えし、このシリーズを終わらせていただきます。
次回の内容:
⑧ 演奏者が歌や朗読の練習をする「究極の効果」!
⑨ 演奏の極意「連鎖」(奥義!)
このような指導法や演奏法にご興味のあるピアノ指導者・ピアニストの方は、まずは無料体験会へ。
もし、行き詰まりを感じていたり、このままで良いのかと思っておられるようでしたら、この体験会できっとその解決の糸口を見いだせることでしょう。
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ピアノレッスンクリニック芦屋
【住所】 〒659-0091 兵庫県芦屋市東山町28-19
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【営業時間】 9時~20時ごろ
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22/09/24
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「どうしてもこんな音を出したいと思えばその通り体が動いてくれて、指も自ずと訓練されていく」
前回は、『弟子から見たショパン』の著者エーゲルディンゲルの、この言葉の内容を説明しながら、それを実現する方法について、以下の項目でお伝えしました。
① なぜ一瞬で歌うような演奏ができるように生徒を変えられるのか
② 「全ては手が命じるままに動く」ショパン
③ 「まっすぐに核心を突くことであり、音楽の技術的側面を容易なものにすることなのだ。」ショパン
④ 「思い通り動いてくれる指」に育てる方法
その続編として今回は、
⑤ 「どうしてもこんな音を出したい」と思うために絶対必要なこと
⑥ 「こんな音」を教師はどう生徒に伝えられるのか
⑦ 朗読と演奏の関係
以上についてのお話をさせていただきます。
⑤ 「どうしてもこんな音を出したい」と思うために絶対必要なこと
この表題にように「思う」ためには、まず「(美しい)こんな音」という、目指す目標がはっきりとわかっていることと、「どうしてもそれを出したい」と、強く思えるようにならないことには、前進への一連の流れは生まれません。
ではこれら2つの想いを強くするためのキーポイントは何なのでしょう?
それが前編でお伝えした、無意識でさまざまな形で表れる身体全体の表情や行動を引き起こす源泉である、心そのものの在り方なのです。
ここでお話する事は、当たり前のように思えるかもしれませんが、最も根本的なことであり、また決定的に重要なことなので、どうかそれを改めて検証するつもりでお読み下さい。
人には真剣に、一生懸命集中しないとできないこともたくさんあります。
でもそう簡単に、すべて何事にでも即座に真剣になれるものではありません。
そこには真剣になるための「動機」を呼び起こす、「具体的な何か」が必要になります。
一番わかりやすい「具体的な例」を一つ挙げると、恋焦がれる恋人の存在かも知れません。
これは決して冗談ではなく、積極的な行動への動機につなげられる感情で、私がかつてギレリスの音色に魅了され、それを手に入れるまでの執念を引き起こされたように、強い「魅力」がそこにあるのかどうか。その存在が不可欠だと、まずお伝えしたいのです。
何に魅力を感じるかは、当然個人差があります。しかし、すばらしい芸術作品や芸術的行為には、わかればわかるほど、また感じれば感じるほど多くの人々の心が動かされます。それへの憬れと魅力を感じる気持ちは大きく膨らんで、「何とかして再び出会いたい、手に入れたい」という気持ちにさせるほどの強い力があります。特に美しい宝石などや高い価値を感じたさまざまなものには、それをぜひ手に入れたいという強い「意欲」が引き起こされるでしょう。
故デームス先生は、レッスン終了後、良くできた受講者だけに、このように言われていました。「花を見なさい。美しい美術を見なさい。文学を読みなさい・・・」と。そうアドヴァイスされていたのは、きっとこのように、美しいものに魅力を感じ取る、感性を育てるためだったのでしょう。
話を元に戻しますが、この強い「意欲」こそ、ショパンの代弁者エーゲルディンゲルが言う、「どうしてもこんな音を出したい」という中身なのです。
その対象に強い魅力を感じなければ、それだけの意欲と真剣さは現れてきません。
生徒がデームス先生のレッスンでイメージを持つ事ができた時の、「そうだったのか、わかった!」という、驚きにも似た新鮮さと強い感動が、大きな力となって心が動かされ、強い表現意欲へとつながっていくのではないでしょうか。
最高齢現役ピアニストの室井摩耶子先生は、その新たな魅力の発見が楽しくてしかたがないご様子で、嬉々として私にお話される度にそう感じさせられるのです。
⑥ 「こんな音」を教師はどう生徒に伝えられるのか
ではレッスンでこのような力を持った大きな魅力を、教師はどうやって生徒に伝えられるのでしょうか。
それが教師の最も重要な役目のはずです。
決して「練習するしかない!」と、ハードで長時間の練習ばかりを強いてはならないのです。
その魅力を持った対象は、時にはたった一つの単音であったり、フレーズであったり、あるいはより長い楽節の場合もあるでしょう。
一番重要で必要なポイントは、そのフレーズなどを記した楽譜に対して、単なる音符ではなく、何らかの気持ちやメッセージを、作曲家が伝えようとして書いているのだと思って、そこから感じ取るように楽譜を読み取れるようにすることです。先ほどの室井先生のように、多くの優れたピアニストたちが、新たな発見を楽しみながら学習されている姿勢に学ばなければなりません。
しかし本来これは、学習者自身が練習中に感じ取れれば一番いいのですが、残念ながら現実は、そうできない場合の方が多いようです。
以下に書くものは、そのような練習の仕方をできるようするための私の提案です。これまで既にお伝えしたものですが、もう一度その私の方法をまとめてご紹介しておきます。
⒈) 教師(または生徒)が歌詞(又はその旋律にふさわしい情景などを表した自由な詩)を付け、そのフレーズから学習者が感じ取ったメッセージの一例を、文字で目に見える形にする。
⒉)それを声に出して朗読する。その読み方は、なるべく声優が語っているかのように、気持ちを込めて声で演技しながら。
⒊) さらにそれを、劇中の人物になって「語る」ことができたら、次は演技しながら、オペラ歌手のように、よく響く声でそれを歌ってみる
<<これらの事をする目的>>
⒈) の歌詞付けは、音符の羅列を、ある意味を持った言葉に置き換えることで、抽象的な音符から具体的な感情をともなったイメージを感じられるようにするためです。
(このシリーズの第6回で、ノクターンに私が歌詞をつけたものを例としてご覧下さい。私がただ単にことばを並べただけではなく、語感やアクセントの位置も考えて作詞していたことを思い出して下さい。)
自由詩の一例は、第6回でご紹介した拙論で例示した、ショパン「告別のワルツ」に見ることができますが、その詩だけをご紹介しておきます。
詩なので、歌詞のように文字を各音符に対応させません。4小節のフレーズ毎に、次の詩が思い浮かびました。
ああ、あれはいつのことだったか 僕のかわいいマリアは
あの時こっちを見て にっこり微笑んでくれた
その愛らしいまなざしに 僕の胸はキュッと締め付けられて・・・
ああ、なつかしき日々 若かりしあの日の頃よ
(音楽と共に、この詩の各段も起承転結と見ることもできますが、それを感じ取りながら弾くことにより、これだけの長い楽節の音楽の流れが途切れることなく、一つのまとまりがある演奏にすることができます。このように、音楽の流れが前へ前へと進んで行くことにより、聴衆の心もそれに引き寄せられながら大きな満足感が得られ、その結果、大拍手へとつながるのです。)
このように、イメージを深くもって各フレーズを弾けば、指先には自然にその想いが音色となって反映されるはずです。故デームス先生も私と同じように、レッスンの中でよく情景を語られたり、即興で詩を作って曲の情景などを伝えておられました。多くの場合、生徒はそれを聞いただけで、弾き方が急変し、意味のない音の羅列だった演奏が、突然聴き手にそれが伝わる、「生きた音楽」に生まれ変わっていくのです。
私は18才でピアノを教え始めた頃から、すでに子供たちにこのような指導をしていました。
例えばブルグミュラー25番「狩」の曲では、
「馬にまたがった狩人が遠くから走ってきて、君の目の前でドドッ!と止まったんだ。」と話して、曲の冒頭p に続くcresc.からfへ、フェルマータで止まるまでの序奏を表現させ、続きは遠くで待ち伏せしている仲間に角笛(ホルン)で、「今からそっちへ追い込むぞぉ~!用意はいいか~?(半終止)」と大きな音fの合図で聞いているところだよ。すると遠くから「OK~、用意はいいぞぉ~!(全終止)」って小さな角笛の音p で返事してるんだよ。」
というように、情景が目に見えるようお話をしてあげていました。
デームス先生も、きっと私と同じ考えで、「生きた音楽」にして弾けるよう教えておられたのではないでしょうか。
多くの教師が「こう弾くのだ」と言って弾いて見せますが、ことばの方がより深くイメージでき、はるかに効率よく、瞬時に演奏へと反映させられる事も、多くの実例から間違いありません。
なぜなら弾いて見せるだけでは、音の強弱などは理解できても、その先生がどのような感情でそのフレーズを弾いているのかまでは、見えないため再現するのが難しいからです。ただ口真似するだけでは、心までは伝えられないのと同じ事になるでしょう。
⒉) の朗読は、情景のイメージが聴く人に伝わるよう、声で演技するためです。音の上に演技力を注ぐ力をつける目的のために、朗読の練習をしておくのです。演奏者には、いつの瞬間でも、その役柄や雰囲気になりきれるだけの、多少の演技力を身につけておく事が必要です。
⒊) の歌ってみるは、同じくそのイメージを、歌声という音楽をともなった声で演技するためです。
この時、よく響く美しい声が、ピアノの音色と共に、表現力に大きな影響を与えるため、正しい発声法による響きと呼吸時の感触を、身体で感じ取れるよう学ぶ必要があるのです。
このような響きのある声が出せると、ピアノの響きにもより敏感になり、美しい「こんな音」への認知能力も高められるはずです。
⒉)と⒊) は、息と声をともなうことにより、演じ方にいろんな多様性が出せます。
また様々なキャラクターになった気持ちで、演技力を高める練習ができます。
ある日本舞踊の先生が語っておられました。「いろんな役になれるのが楽しい」と。
オペラ歌手やバレリーナの方々も、きっとそう感じておられることでしょう。
ピアノを弾く楽しみも、常にそうあってほしいものですが、教師側からそう言わなければならないのは、生徒の気持ちが、楽譜が語り掛ける音楽と結びつかず、また音色の上にも反映されない人が、残念ながら非常に多いからなのです。
演奏者が感じているその情景や心情が聴衆に伝わってこそ、聴き手に満足を与える、生きた演奏になることでしょう。
そのためここに書いた練習法は、ある程度できるようになるまで毎日の練習で実践されれば、きっとピアノの音を聴く耳も変わり、弾き方も変わり、ピアノを弾く楽しみ方までもが変わっていくことでしょう。
これはまた次にお話しする、演技力ある演奏につながる事なのです。
さらにまた、歌う声にも歌い方にも、自然に良い変化が生まれることでしょう。
⑦ 朗読と演奏の関係
朗読と演奏には、きわめて近い類似点があり、両者の読み方には、次のような読む能力の段階が考えらえます。
音型の意味は把握できるが、ある意味をもった文の一部として把握するまでには至らない。
⒊) フレーズを意識して読む。⇒1~2小節程度をひと塊として弾けるが、まだ何らかの表情を感じて把握できていない。
⒋) 一つの文章として、意味を把握して読める。⇒4小節程度のフレーズに、表情を感じて弾ける。
⒌) より大きなフレーズ(8小節以上)として、前後の文章との関連を読み取りながら、表情を込めて読める。(ノクターンop9-1の場合は、12/8拍子で1小節が長いため4小節分。)
前出のノクターンとワルツの例のような、起承転結を意識して演奏すれば、聴く人は話の進展を追うことができるため、より一層そのメッセージが伝わりやすくなるでしょう。
最後の8小節のフレーズについては、『弟子から見たショパン』p69に、「音楽における句読法と朗誦法の規則」として詳しく書かれています。(この中でも、先ほどの「告別のワルツ」が、例として使われていました。)
そしてその直前には、次のように書かれています。
「ショパンが弟子たちに教えていた様式の理論は、すべて音楽と言葉の類似を基礎にして、さまざまなフレーズに分け、音の強弱や速度に句読点をつけ、ニュアンスをつけることを旨としていた。」(p69)
このように、楽譜の旋律を、まるで文章のように扱っていたことがわかります。
つまり、ショパンにとって楽譜は、意味を持った言葉であるだけでなく、まるで文章のように読んでいたと思われます。そのため、時には生徒の楽譜に、句点を書き込んでいたそうです。
しかし、これこそが楽譜を意味のある音にし、その音楽を生きた存在に蘇生させる秘訣であり、聴き手にそれが伝わる表現となり得るのだという事を、彼は教えていたのではないでしょうか。
最終回の次回は、どう練習すれば最も楽に手を使い動かすことができるのか。また、どのように音楽を捉えれば、音楽のスムーズな流れを生み出すことができるのかを、この番外編を含むプロフェッショナルコースの最も重要なポイントとしてお伝えし、このシリーズを終わらせていただきます。
次回の内容:
⑧ 演奏者が歌や朗読の練習をする「究極の効果」!
⑨ 演奏の極意「連鎖」(奥義!)
このような指導法や演奏法にご興味のあるピアノ指導者・ピアニストの方は、まずは無料体験会へ。
もし、行き詰まりを感じていたり、このままで良いのかと思っておられるようでしたら、この体験会できっとその解決の糸口を見いだせることでしょう。
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